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ミステリ

【ネタバレ無し】”シンプル”を追求した本格推理ドラマ「アリバイ崩し承ります」【感想・レビュー】

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/

ミステリファンの鼻腔をにわかにくすぐるこのタイトルを初めて目にしたのは2019年末、ネット上のニュースサイトでのことでした。

万人ウケを狙わざるを得ないはずのテレビドラマのタイトルにミステリ用語を冠している辺り、「”古畑”みたいな本格推理モノなのかも」と想像が働き、俄然ソワソワしてしまったのを覚えています。

そしてそれから半年ほど経ってつい先日、地上波での本放送が全て終了。
毎週欠かさず視聴していましたが、浜辺美波の事件への異常な関心と、安田顕の目まぐるしい表情筋が印象的なドラマでした。

肝心のミステリとしての印象としては、結論だけ言えば「シンプルな謎解きの楽しみがある佳作」といった感じになるでしょうか。

謎と手掛かりの提示、そして論理的な解決という本格の要件が満たされているため、それを期待する人にも安心してお勧めできる内容です。

以下、本作品をこれから見るミステリファンに向け、ネタバレしない範囲で個人的所感をお送りします。

 

「アリバイ崩し承ります」の概要、あらすじ

アリバイ崩し承ります」は、テレビ朝日の土曜ナイトドラマ枠で2020年2〜3月にかけて放送された連続ドラマです。我ながらWikipediaみがありますね。

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/

原作は同名の推理小説で、丸々1冊分が映像化された形です。連作短編集である原作に則り、ドラマも1話完結型で進みます。

話数は全7話(+特別編前後編)。

6話が終わって「折り返しかー」と思っていたら急に「次回、最終回!」ってなったので出演者の誰かが不祥事を起こしたのかとビビりましたがそうではなく、原作のストック的に最初からこの話数で制作されていたようです。

本編のあらすじは3行でまとめると、

時計屋の傍ら、1回5千円でアリバイ崩しの依頼も受けていた祖父を半年前に亡くし、店とアリバイ崩しを継いだ美谷時乃(浜辺美波)の家に、警視庁から左遷されたキャリア組刑事、察時美幸(安田顕)が手違いから下宿することになった。

左遷先の町で殺人事件を捜査する察時だが、有力と思われた容疑者には完璧なアリバイがあり、捜査が行き詰まる。プライドから同僚の力も借りられず悩んでいた所に時乃がアリバイ崩しを得意としていることを知り、当初は拒否するも結局依頼する。

察時から捜査状況を聞いた時乃は推理を展開、トリックを看破しアリバイを崩す。その推理を基に真犯人を検挙し自分の手柄とする察時。時乃に頼っていることは同僚には絶対に秘密にしてくれと固く口止めしているが……。

こんな感じ。文面だけ見ると察時がすごい小物ムーヴでウケますね。

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/story/0001/

そして何と言っても本作最大の特徴は、やはり「”アリバイ崩し”のみを取り扱っている」ということに尽きます。

毎回起きる事件は多様ながら、謎の焦点が全てアリバイ崩しに集約されていくのです。

密室のミの字も出てこないため、もし「アリバイ崩しが大の苦手」という人が周りにいたらタイトルは言わずに見せてあげると良いでしょう。

 

個人的感想・レビュー

シンプルな構造によって純粋な謎解きが楽しめる

本作は原作の段階から、そのシンプルな構造が特に取り上げられてきました。

作中の人間関係や犯人像といった要素が可能な限り簡素に設定されており、かつ謎解きにも関与してこないので、視聴者は「どうやってアリバイを成立させたのか?」の1点に集中して楽しめるようになっているのです。

まず主人公側の設定からして、

  • 自然に事件に関われる刑事のワトソン役
  • 超人的な推理力を持つ探偵役

という金田一耕助レベルのベタベタな組み合わせを採用しており、とにかく余計な要素は排除し、シンプルに謎に辿り着かせようという意図を感じます。

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/cast/

小説のドラマ化には時として、キャストありきの無理な設定変更、原作にない恋愛要素の重視で謎解きが添え物になるといった悲劇が見られることも残念ながらあったりします。

しかし本作はドラマ化する上で必要な追加・変更はあれど、あくまで視聴者の興味は”謎解き”で引いていこうとする姿勢を崩しません。

幅広い視聴者層を意識しながらも推理モノとしての骨格が尊重されているところが、個人的にとても好印象でした。

 

”ミステリ”の純度は高い

トリックが「アリバイ崩し」縛りとなっている今作ですが、原作者がマジモンの推理作家なだけあって、毎回違った趣向で多彩な謎が提示されます。

「音楽データのダウンロード」を扱う先進的な回から雪山の山荘が舞台のお約束の回まで、全7話という話数にしてはバラエティに富んでいるように思いました。

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/story/0006/

そしてもちろん各回とも、解決編までに提示された手掛かりによって最後には論理的な解決が提示されます。

あくまで個人的には、という注釈がついてはしまいますが、全体を通してアンフェアに感じた真相はありませんでした。
予備知識なしで推理モノっぽいドラマを見るとえげつないアンチミステリだったりすることが時たまありますが、少なくとも本作にその心配は無用です。

トリックそのものの是非についてはぜひ、ご自身の目で確かめてみてください。

 

とはいえ、少し思うところも

では強靭無敵最強の作品だったのかと言われれば、若干思うところがあったのも事実です。

まず、「目新しさ」や「独自の魅力」と言えるポイントはあまりないと言わざるを得ません。

上で書いた通り本作が”シンプル”を追求しているのは分かるのですが、

  • 登場人物が単純化されるあまり、「トリックのある事件を解決した話」に終始する
  • この作品独自の雰囲気が薄く、「素人探偵と刑事のクスッと笑えるミステリー」という既に沢山あるドラマと印象が重なる
  • 事件以外の部分はいわゆる”お約束”が多く、展開に新鮮味が薄い

といった”わかりやすさ”と引き換えに失われているものも多く感じられ、何回も見直そうと思わない遠因になってしまっている気がします。

また、広い視聴者層を意識してかコメディっぽいやり取りやデフォルメの強い人物造形を盛り込む一方で、複雑な時間経過や経緯の把握が必要なアリバイトリックが話の要という、どっちつかずとも取れる構成も気になりました。

俳優や人物同士の絡みが見たい人にとって謎は小難しく、謎を楽しみたい人にとってマンガ的とも言える人物造形は不自然なものに見えてしまうように感じるのです。

結果として刺さるのは相反する2つの要素を両方ほどほどに楽しめる人だけという、広い視聴者層を狙った当初の目論見と反対の結果に落ち着いてしまった印象が拭えません。
ここは公共の電波でやるドラマの難しさですが、浅く広くでは結局消費されて終わりがちなのが昨今の情勢かとも思います。

あとこれは個人差かもしれないので簡単に済ませますが、解決の手掛かりが少し分かりづらいと感じた部分もちょっとだけありました。

映像化する上では仕方ない部分もあるものの、提示の仕方がさり気ないというより見えにくいものがあり、解決編を見ていて「停止できないリアルタイム視聴であの一瞬の画からそれを読み取るのは……」と感じてしまったのが正直なところです。

 

作品の配信事情と特別編

本作の配信は、

配信しているサービス

の3つで観ることができます。
テレ朝動画という公式サービスもありますが、本当にテレ朝の動画だけしか見れないのでお勧めしません。

U-NextdTVは無料期間があるのでその間に十分見切ることが可能です。
アカウントを持っているならプライムビデオが一番手軽ですが、残念ながら全エピソード有料なのであえて使うメリットはありません。

また本作にはテレビでは未放送の動画配信限定の特別編(前後編)が存在するのですが、これはABEMAでしか観ることができないので注意しましょう。

公式サイトより引用:https://www.tv-asahi.co.jp/alibi/netoriginal/

そしてこの特別編、前編は無料アカウントでも視聴できますが後編はプレミアムアカウントへの登録が必須というなかなかのやり口になっています。
ちびまる子ちゃんで同じことをされていたら出る所へ出ていましたが、幸いこちらにも1ヶ月の無料期間があったので事なきを得ました。

なお、DVDとブルーレイは7月頃発売予定です。森本レオのリアル過ぎるお爺ちゃん役がいつでも見返せます。

 

令和の推理ドラマの行方

僕はどうしても推理モノとして捉えてしまいましたが、単純に浜辺美波目当てで楽しむのも勿論良いと思います。っていうかTwitterではそっちの方がほとんどでした。

1ミステリファンの我儘だと分かってはいるのですが、やはり個人的には純粋な謎解きを主眼にしたドラマが今後増えてくれると嬉しいところです。

「映像だからこそ成立するミステリ」なんてドラマでしかできない題材だと思いますし、令和の今だからこそ描ける物語も見て観たいなぁと思います。これで僕が知らないだけでもうたくさんあったら笑いますね。

そういう意味で、「アリバイ崩し承ります」が今の時代に出てきたのは製作側にもミステリ好きがいることの証左でもあるのかもしれません。

最終回は「おっさんずラブ」越えも果たした本作。もしパワーアップして戻ってくるような事があればその時はまた、1人のミステリファンの目線から観てみようと思います。

 

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DTM(作曲)が好きな20代。労働のアンチ。最高10PV/月達成。 普通に生きているだけでなんか色んな問題に行き当たるので、それらを解決するたびに「どうやったか?」を記事にして更新します。つまりは雑記ブログです。 DTMブログ「1176に火を入れる」(https://1176fire.com/)も運営しています。