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書評

【ネタバレ無し】「中間管理録トネガワ」は漫画キャラの”情熱大陸”である【レビュー】

引用:https://yanmaga.jp/c/chukankannriroku_tonegawa/

著名な人物の、一般的に知られているイメージとは違う一面が垣間見れる番組、「情熱大陸」。

どうしてもアフロのバイオリニストに意識が行きがちですが、遠い存在である著名人の人生や考えがリアルに描き出されることこそが、企画としての醍醐味であるのは間違いないでしょう。

それはあくまで実在の人物の話ですが、つい最近、漫画のキャラクターで同じことをしている作品に出会いました。

いわゆるスピンオフと呼ばれる形態自体は珍しくないものの、この作品は一人のキャラクターに、原作にはない奥行きを見事に与えていたのです。

その作品の名は、「中間管理録トネガワ」

ある一人の中間管理職、その仕事の流儀に迫ります。

「中間管理録トネガワ」の概要とあらすじ

藤原竜也の「な”ん”で”だ”よ”ぉ”お”お”お”」というギャグで有名な漫画、「カイジ」シリーズに登場する敵役のおじさん「利根川幸雄」を中心とした、いわゆるスピンオフ作品です。

「カイジ」における利根川は、

  • 悪の巨大企業「帝愛グループ」の最高幹部
  • 金持ち向けのショーとして企画した違法なギャンブルで参加者を苦しめる
  • 反発するギャンブルの参加者達を演説一つで黙らせる
  • 最終的に自分も対戦者として参加、容赦のない巧みな策略でボロ勝ちする

といった知力と実力を兼ね備えた強敵として描かれており、実際に主人公カイジは対峙した際、かなりギリギリの戦いを強いられています。

つまり原作を読んだ人にとって利根川は、「社会の仕組みをよく理解していて、その上それを利用して自分の有利な方向へ物事を運ぶ事ができる実力を持った人物」として映ります。金も力もなく、自堕落なカイジ達に無い物を全て持っているので、本来であれば一方的に蹂躙されるしかないような難敵なのです。

そんな悪魔的に隙のない利根川ですが、このスピンオフでは自身の役職である「中間管理職」としての姿が描かれます。

 

「中間管理職の悲哀」に密着したギャグ漫画

「おじさんが主役」という説明で既に感情を失っている人もいるかと思いますが、それはあまりに勿体無いと言わざるを得ません。

原作では随一の切れ者として債務者達を苦しめた利根川ですが、この作品では絶対的な権力を持つ上司と個性が強すぎる部下達の間に挟まれた中間管理職として、次々に降りかかる問題に「がっ……!」だの「ぐぅっ……!」だの言いながら苦悩しつつ対処していく様が描かれていくのです。

絶対的上司の存在

誰でも「横暴な上司」なんて存在は苦手なものですが、利根川の場合はワケが違います。

彼の唯一の上司である「兵藤会長」は原作にも登場する帝愛グループの絶対的トップであり、その機嫌を損ねることは最悪の場合、死を意味します。この死とはクビとかの社会的な死ではなく、文字通り生命活動の停止のことです。

詳しくは原作を読めば分かりますが、絶大な権力と財力を持つでんぢゃらすじーさんである兵藤会長に口答えなど許されず、この世の終わりみたいな無茶振りの数々に利根川は常に振り回される格好です。

兵藤会長から女子小学生みたいな心理テストを振られ、デスゲーム並みの心理戦を展開する利根川の心労は察するに余り有ります。

個性が強すぎる部下達

幹部なので直属の部下も多数抱える利根川ですが、こっちはこっちで何故か全員クセが強く、様々なトラブルに巻き込まれていくことになります。ラブコメから美少女を抜いたような状態です。

苗字が複雑で覚えにくいところから始まり、仕事のミスを報告しない、インフルエンザで全滅するなど、一筋縄ではいかない部下のマネジメント事情がこれでもかと描写されていきます。

個人的には、外見の差が少ない部下達に対して「付くかっ…!区別っ…!」と言い切って一人ずつ自己紹介させたのがめっちゃツボでした。

 

そして浮かび上がる「利根川」というキャラクター

それまでの冷静で狡猾なイメージとは真逆の、苦労人としての一面を笑いながら読んでいると、いつしかこの利根川という男に対して好感を持っていることに気付かされます。

基本的にはギャグ漫画なので、会長からの無茶ぶりなどで酷い目に遭うのが典型的なパターンなのですが、それと同じくらい持ち前の能力の高さや人格が活かされる良いエピソードも多いのです。

ネタバレになるのであまり詳しくは書けませんが、一例を挙げると

  • 転勤が決まった部下をこっそり励ます
  • 帝愛公式Twitterの中の人を自ら行う
  • 女性スタッフへの過剰なまでのセクハラ防止の配慮

など、基本的に真面目な性格で他人への配慮があり、柔軟な思考もできる人物であるという意外な一面が顔を出してくるのです。

この「人間味」は原作には描かれていない部分であり、「トネガワ」を読み切った頃には冷徹な悪魔が理想の上司に変わってしまっていてビビりました。こうなるともう、原作での利根川の扱いが不憫で仕方ありません。

こうした「原作では描かれなかったキャラクターの奥行きを表現できる」ことこそがスピンオフの醍醐味であり、その強みがこの作品には特に活かされていると感じます。

 

「トネガワ」を読む前に

「カイジ」も緻密に組み立てられたストーリーが大変に面白い作品ですが、その設定や画風などのエッセンスを活かしつつ、全く別のギャグ漫画として成立しているこの「トネガワ」も、何ともエゲツない完成度です。

しかしその性質ゆえに、原作「カイジ」を先に読んでおくのが必須であると個人的に思います。

スピンオフ作品なので仕方ないのですが、「トネガワ」は原作に出てくる登場キャラを流用して作られているため、そのキャラ達の人となりや関係性をざっくり知っていないと話についていけない恐れがあります。

また一部ですが原作のエピソードや設定を補完するような話もあるので、そういう意味でも元となる原作の設定を知っている方が楽しめると思います。

そして何より、「トネガワ」の良さは上記の通り利根川の新しい人間性を楽しめるところにあります。それはとどのつまり原作での利根川とのギャップであるので、原作での強敵としての利根川を知らない状態では今作の魅力が半減しかねません。

少なくとも原作の第2章(賭博黙示録カイジ1〜13巻)まで、欲を言えば第3章(賭博破戒録カイジ1〜13巻)まで読了済みであれば、「トネガワ」の面白さを存分に堪能できるでしょう。

ちなみに「トネガワ」の他にも、大槻という登場人物にスポットを当てた「1日外出録ハンチョウ」というスピンオフ作品もあります。コレは設定からしてゴリゴリのネタバレなので、手を出す場合は原作第3章までの読了が必須です。

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「カイジ」シリーズは絵で損しているところがジョジョ以上に大きい漫画だと思うので、正直取っ付き易くはありませんが、そのストーリーは評判通りの折り紙付きです。

是非、この週末に悪魔的な一気読みをしてみてはいかがでしょうか。

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DTM(作曲)が好きな20代。労働のアンチ。最高10PV/月達成。 普通に生きているだけでなんか色んな問題に行き当たるので、それらを解決するたびに「どうやったか?」を記事にして更新します。つまりは雑記ブログです。 DTMブログ「1176に火を入れる」(https://1176fire.com/)も運営しています。