ミステリ

ソシャゲ上で起きた”本格”の殺人事件「虚月館殺人事件」【ネタバレ感想】

人はある程度ミステリを嗜むようになると、段々「本格」という言葉が迂闊に使えなくなっていきます。
なのにカレールーのパッケージとかには雑に使われていて、ヒヤヒヤすることもしばしば。

なぜそんなことになるのかと言えば、ミステリの世界における「本格」という言葉が一種のプライドを含む言葉だからなのです。

端的に言えば

作中に出てくる手掛かりをちゃんと検討すれば、読者にも謎の真相が解けるように作られたミステリ

のことを“本格”ミステリと呼ぶのです。

有り体に言うと

「探偵が出てきて人が死ぬ話が全部ミステリなわけじゃないやい!」

「読者にもちゃんと解けるように出来てるミステリが本物なんだい!」

という背景から生まれた言葉なので、迂闊に本格を名乗れば相応の厳しい視線が待っているのです。
かの東野圭吾ですら、自作が本格かどうか疑われたことがあるほど。

 

その点で言えば、今回お話ししたい「虚月館殺人事件」はまさに本格ミステリなのです。
上記のような事情を話した後にこう続くと、僕の本気具合が伝わるのではないでしょうか。

そして驚くべきは、この作品があるスマホ用ソシャゲのシナリオとして発表されたものであるということ。

これはもちろん僕がソシャゲを下に見ているという趣旨の発言などではなく、このシナリオが「そのゲーム上で」プレイされるということに対して最適解と言わざるを得ない完成度だったのだと言いたいのです。

ここまでで興味が湧いた方はすぐにプレイ動画か何かを見に行くことをお勧めします。
ここから先は、シナリオを読んだ後に抱く想いを共有するための場になっているからです。

ここからは作品のネタバレを含みます。ご注意ください。

 

「虚月館殺人事件」とは

みんな大好きFGO2018年5月に開催されたイベントです。

なんとも新本格の始祖っぽいタイトルですが、シナリオは円居挽氏だと後に発表がありました。

ストーリーのあらすじは以下の通り。

物語は三泊四日で訪れた豪華なホテル「虚月館」から始まる。
館に届いた一通の「脅迫状」は、やがて殺人事件へと姿を変え
登場人物の一人であるあなたは、犯人捜しに巻き込まれた。
七日間に渡る捜査の果てに待つ真相とは―――。

ここに書かれている通り、シナリオは7日間をかけて1話ずつ解放される仕組みになっており、1日の犯人当て投票期間を挟んだ最終日に解決編が開示されました。

ちなみにこの犯人当て投票で真犯人が投票多数だった場合、ガチャを回すための石が全プレイヤーに10個配布されることになっていたので、皆ガチで当てに行く必要がありました。そりゃもう血眼です。

 

ミステリ作家による、ミステリファンのためのミステリ

ストーリー自体はミステリに馴染みのないユーザーでも楽しめるようにとの配慮からか、わりとシンプルなミステリでした。

しかしそこに含まれる要素の一つ一つは、「#ミステリクラスタさんと繋がりたい」と言わんばかりのファンサービスの嵐だったのです。まさに淫してみたといった手合い。

まず物語の世界観からして

  • 古い館
  • 訳アリの家族
  • 外界から隔絶された状況

 

と、今時コナン君でも見ない程のミステリ具合。もうバカだな億康くん!だからいいんじゃあないか……。

ご丁寧に人物相関図まで出てきます。

建物には暖色しか使われていないのに、何となく青いイメージが浮かぶようです。

もう新作のドラマは絶望的だと思うと悲しみに包まれます。

正直大満足です。このお肌ツヤツヤ具合が文章では伝わらないのが残念でなりません。

ミステリの魅力の一つは、こういう「お約束」や「暗黙のネタ」が多いところにあります。界隈全体に若干のオタク気質があるのでしょう。

 

FGOでなければ成立しないミステリ

僕が記事まで書くほどにヤラレてしまったポイント。

それは、このシナリオのトリックにありました。
トリックが素晴らしいミステリ。これ以上の正義があるでしょうか。

この「虚月館殺人事件」のトリックは、難解な物理トリックでも乗り鉄垂涎の時刻表トリックでもありません。ごく一般的な心理トリックです。

しかし、そのトリックの盛り込み方が一般的ではなかったのです。

まず前提として、

  • シナリオに登場する人物達は全員、FGOの世界とは全く関係のない一般人
  • しかしとある事情から、主人公には全員が見知ったサーヴァントの姿に置き換わって見えている
  • 置き換わりは元の人物像に近いサーヴァントが選ばれ、老紳士には老紳士のサーヴァントが、幼女には幼女のサーヴァントが当てられている

という状況があります。

そういう設定がなされれば、おのずと母親には母親のサーヴァントが、双子には双子のサーヴァントが当たる形になります。

しかし、それこそが先入観だったのです。

実は頼光の姿をしていたエヴァが妹、エウリュアレの姿をしていたハリエットが母親だったという心理トリックがこのシナリオ最大の仕掛けでした。

「やられた!」という衝撃で思わずウヒィみたいな声が出てしまいました。

しかもこの先入観は、元のキャラクターの性格に精通しているFGOユーザーでなければ持ちえないものなのです。まさしく、本当の意味で「このゲームの為に用意されたシナリオ」だと言えるでしょう。

 

依頼に対する針に糸を通すような回答

そうなると次は、この見事という他ないシナリオを書いた円居挽氏のことが気になってくるのが道理です。

色々ググってみたところ、

条件は
『短い読み物を一日更新で、一週間ほどのもの』
『FGOはミステリ未経験者が多いので、初心者向けのシンプルなものを』
『それでいて「FGOでないと成立しない」ワントリックものを』
『FGOはあくまでゲームなので、小説家ではなくライターとして頭を切り換えてほしい』
というものでした。執筆期間も満足にご用意できず無理難題にも程がありましたが、
円居挽氏は見事にこの条件をクリアしてくれました。

※引用:「竹箒日記 : 2018/05」(http://www.typemoon.org/bbb/diary/log/201805.html)

依頼を完璧にこなすゴルゴみたいな仕事ぶりが窺えるエピソードや、

自分の推しメンに重要な役どころを斡旋したと思しきツイートなどが発見されました。

堅い仕事に忘れない自分の色。カッコ良すぎて本当にゴルゴみたいな見た目なんじゃないかと思えてきました。

とのことですので、その背中を学ばせてもらおうと思います。

 

最後の謎

ソシャゲ上で起きた一つの殺人事件。それにまつわる想いの全てを語ることができ、もう思い残すことはありません。

しかし一つだけ、謎が残ります。

イベントの開催が2018年5月上旬で、この記事を書いている現在は2019年3月末。

なぜイベント終了後、一年も経ってから今更この記事を書いたのか?

我ながら謎めいた導入ですが、ここは現実なので推理の余地はありません。

その理由はすぐに思い当たりました。

何故か、イベント開催当時はストーリーを全部スキップしてたから。

一年経って「そういえばミステリっぽいイベントやってたことあったな」と思い出して動画を視聴し、一年遅れて衝撃を受けたので記事にしたというわけです。

しかしどれだけ考えても、「ミステリ」「ホームズ」「犯人当て」と好きな要素しかないはずのストーリーは全て飛ばし、素材集めに終始していた理由が全く思い出せないのです。そういう意味ではまだ謎は解けていないと言えます。

現実の謎がこれほど取り留めのないものだとは思いませんでしたが、そうであるからこそ、ロマンに溢れたフィクションのミステリに惹かれて止まないのかもしれません。

 

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DTM(作曲)が好きな20代。労働のアンチ。最高10PV/月達成。 普通に生きているだけでなんか色んな問題に行き当たるので、それらを解決するたびに「どうやったか?」を記事にして更新します。つまりは雑記ブログです。 DTMブログ「1176に火を入れる」(https://1176fire.com/)も運営しています。